ポメラニアンアウトプッツ

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「動員の少ないバンドはライブするのを止めてもらえないだろうか」という海保氏の発言はただの炎上マーケティング

というタイトルを付けるとニュアンスが近いかな? と思い煽ってみた。今回の愚痴は以下のブログについて。

kntr.world-scape.net

海保氏が訴えている件を要約すると以下のようになる(と僕は理解した)。

  1. ライブハウスには運営や接客の面で問題がある
  2. これが改善しないのはアマチュアミュージシャンがノルマを払うから
  3. ノルマを払うバンドがいなくなれば質の低いライブハウスは潰れる
  4. 質の高いライブハウスが生き残り、質の高いバンドしか出演できなくなる

極論ではあるが悪くないと思った。だが、「?」もあったのでいくつか書いていこうと思う。

バンドを批判するのはどうなんだろう?

マーケティング的な視点で言えば、今回の切り口は非常に良い。あっぱれだ。海保氏の立場でこう言い切るのは波風が立ちやすくてすごくいい。もちろん、彼もそれを承知で発言しているのだろう。頭がいいなと思う。

だが同時に、やはりモヤモヤとした気持ちにならざるを得ないのは、批判の対象をバンドへと向かわせている点ではないだろうか? だって、バンドというのはライブハウスからしてみればお客さん。どうしてお金を払っている側が非難されなくてはならないのだろうと考えてしまう。と言うわけで、ちょっくらバンド側を擁護してみる。

「ライブハウス・サービス悪い問題」は当たり前

常々僕はこの問題について、どうしようもできないだろうと考えている。それは、バンド側が行うライブが、そもそもビジネスとして成り立っていないからだ。順を追って考えてみよう。

まず、根底にあるのはライブハウスのお客さんがバンドであるということ。ライブハウスは観客からのチケット代金を直接はもらわない。興行主であるバンドからもらうことになる。極論で言うと、商売相手がバンドなのだから、その観客に対してサービスを良くする必要がない。

ライブハウスがサービスレベルを上げざるを得ない状況とは、それはお客さんであるバンドからクレームを受けるか、よっぽど出演バンドが集まらなくて、他のライブハウスと差別化をしなくてはならない時だ。もちろん、これはあって然るべきことだと思う。ビジネス上当然だろう。

しかし、バンド側からクレームが出るということはほぼないと考えられる。これは、力関係が「バンド<ライブハウス」になっているからだ。「もっとキレイな箱だったら集客できるますよ」なんて、口が裂けても言えない。結果として、サービスレベルの向上は行われない。

では、どうしてこの力関係が逆転しないのだろう? それは、見出し冒頭で述べた「ライブがビジネスになっていないから」に他ならない。結局、ライブハウス側が想定するよりも高い売上をもたらすことができない以上、バンド側は何も言えないのだ。さらに、ライブハウス側の立ち位置としては「他にバンドはいくらでもいますからね」ということである。

本当に「他はいくらでもいる」のか?

僕としては、今回これを声大きめで訴えたい。前述のとおり、バンドはライブハウスよりも弱い立場にいる……ように見える。しかし、それがまったくの思い違いということだ。ライブハウスにとって、実は「他」はほとんどいない。

これはライブハウスビジネスを少し考えれば分かると思う。たとえば1組のバンドが毎月1回、イベントに出演してくれたとしよう。一回のノルマが2万円。それに加え、ライブハウスで打ち上げをしてもらえれば、4人組バンドの場合1500円の飲み代で1回6,000円。合計26,000円×12カ月なので、年間で31.2万円の売上だ。

そこまで業界に明るくないのでなんとも言えないが、小規模のライブハウスの年商なんて5,000万円くらいだろう。うち、1,500万円くらいはドリンク代かなと思う。あとは、人気バンドがワンマンをしてくれたりして、いつもより売上が多い日が月に何度かあったとして、それが500万円くらい。すると、残りが3,100万円。先ほどの31.2万円で割ると、つまりライブハウスの経営を支えるのは100組程度のバンドということになる。

これを多いととるか少ないととるかだが、圧倒的に前者であることは間違いない。だって、世の中のバンドの数なんてたかが知れている。これが1万組のバンドがあるのなら話は別だが、さすがにそんなのはあり得ない。

つまりだ。バンド側はもっとわがままになっても問題ないのだ。「あのもぎり、態度悪くて困ります」「今日のイベント、禁煙ににならないんですかね?」などなど。スタッフに対して伝えてしまえばいい。筋さえ通っている意見なら、それで呼ばれなくなるなんてことは、恐らくない。呼ばれなくなったとしても気にする必要はない。今は完全にバンドがライブハウスを選べる時代である。だって都内に700店舗くらいあるんでしょ? もっと待遇の良い箱に出演すればいいのだ。

7〜8割のライブハウスが閉店した後の現実

ここからはちょっと揚げ足取りになるが、海保氏の意見を否定しておく。まず、海保氏の言うとおり、バンドがライブをしなくなれば良いのか? という問題。「そこまで単純ではない」というのが僕の意見だ。そもそも、彼のロジックには矛盾がある。間違いがないよう、引用してみよう。

例えばチケットノルマ分も動員できないバンドが、来月から一斉にライブをやめた場合、どうなるか考えてみてほしい。

少なくともキャパ100〜300くらいの都内ライブハウスは、出演者が激減してスケジュールの7〜8割が空くことになるだろう。

中略

そして当然、ライブハウスが激減するということは、そこに出演できるバンドの数も激減する。

音楽的にも素晴らしく、集客もできる、レベルの高いバンドしかライブハウスに出演できなくなるのだ。

ここがそもそも間違っている。前提条件として、集客ができないバンドがライブをしなくなっているのだから、出演できるバンド数は激減しない。単純に、需要(バンド)と供給(ライブハウス)の割合が同じになるだけだ。

しかし、これまでの需要と供給のバランスは崩れる。現在は供給過多なわけだから、それが減ればライブハウス側は少なからず使用料の値上げを行う可能性もあるだろう。結果、ミュージシャンへ渡る売上が減ることが予想される。うーん、これはちょっと厳しい。

ちなみに、現実的に見ていくと、ライブハウスが減少すると同時に、必ず新規のライブハウスが参入してくる。多分、サービスレベルを落として、箱代を格安で提供するようなところだ。周りの箱の使用料が高騰すれば、格安ライブハウスは必ず儲かる。その後、今の状況に戻るような気がする。

集客・チケットノルマ問題について

さて、次にこの問題。海保氏が問題としているのは、以下の2点だ。

・集客についての努力をほとんどせず、出演するバンドの集客に全面的に頼っているという「ライブハウス・集客しろ問題」

・本来は協力関係にあるはずの出演するバンドからお金を取ることで、商売を成立させているという「ライブハウス・チケットノルマ問題」

この点については、持論として「そこまでライブハウスに求めるのかよ?」という想いがある。この「本来は協力関係にあるはず」という点が、そもそも間違っているのではないだろうか?

ライブハウスは確かにイベントを組んでいる。だが、平日のブッキングライブに関して言えば、これはイベントと言えるような代物ではない。そもそもインディーズミュージシャンを何組か集めただけで訴求力のあるイベントを打つのは無理がある。

結局のところ、イベントの訴求力とは出演者のラインナップでしかないだろう。ちょっと嗜好を凝らしたからと言って、覆せるものではない。多少、人が集まりそうな面白い企画があったとしても、それを毎日続けるの無理に等しい。そういうのは、せいぜい週に1回程度ではないだろうか?

つまり、イベントとは言いながらも実質はそれぞれのバンドの単独公演のようなものなのだ。だから、主催者はそれぞれのバンドなのだと僕は考える。この点を考えると、ライブハウス側にそもそも集客しろだのノルマを課すななどはお門違いなのではないだろうか。

もちろん、最低限の告知をしていないケースなども目立つので、それはそれでどうなの? とも思う。ライブ当日1カ月前なのに、ブッキングライブのメンツが揃っていないからまだ告知が出せないとか言うのは、集客の阻害以外の何物でもない。その点は改めるべきだ。

なので、この問題についてはどちらかというとイーブンなのだと思う。バンド側が自分たちの手で集客をすべきだと思うし、ライブハウス側はその足を引っ張らないように最低限のことだけに気をつけて入ればいいと思う。

海保氏の理想は無理だと思う

最後に、海保氏が語った理想についても考えてみる。

「今夜は暇だから駅前のライブハウスに寄ってってみようかな」というお客さんだって増えてくるはずだ(今は皆無と言っていい)。

これはねー、無理だと思う。だって、すでにライブハウスに行くこと自体がそこまで楽しいものじゃない。いや、それは少し語弊があるか。ライブハウスよりも楽しい娯楽が、世の中には多すぎるのだ。

ハッキリ言って、自分の趣味じゃないバンドのライブなんて苦痛でしかない。何も楽しくない。これがジャニーズとかAKBだったらショーとしてもっと楽しいけど、今どきバンドがただ演奏している光景なんて珍しくもなんともない。それくらい、もうバンドのライブというのは魅力的ではなくなってきている。

暇な人は家に帰ってYouTubeを見る。もしくはチケット代の2,000円をソシャゲに課金する。ちなみに僕の場合は、カラオケに言って自分の好きな曲を歌っているほうが100倍くらい楽しい。好きでもないバンドのライブなんて、その程度の価値しかないのだ。

もちろん、一定数「ライブが好き」という人口はいるだろう。しかしそうした属性の人は、すでにライブハウスに通っていると考えられる。つまり、新規顧客の開拓はもうほとんど無理に近いのだ。

その証拠に、ジャズバーなどで開かれているライブの集客の少なさがある。はっきり言って、ああいうところで演奏しているミュージシャンのレベルはそのへんのバンドより数段上だ。素晴らしさが何たるかの議論を端折ると、音楽的にも素晴らしい。しかし、「暇だからジャズバー行こうかな」とはならない。これは、すでにジャズファンという人数が決まっているからだろう。

むしろ、バンドのライブに通うような客の数を増やしているのは、数多いる集客のできないバンドなのではないか? とも思う。実際に僕の友人は、バイト先の人のライブを見に行き、その後ライブハウスに通うのが習慣になったようだ。彼女はこれまで、大きな規模のコンサートにしか行ったことがない。しかし、“バイト先の知人のライブ”というきっかけによって、ライブハウスへと足を踏み入れたのである。

結果として、誰も悪くない

「動員の少ないバンドはライブするのを止めてもらえないだろうか」という主張は、個人的に好きだし面白いとも思う。だがしかし、それが音楽業界を盛り上げるきっかけになるとはどうしても思えない。もちろん、海保氏も本当にそう思っているわけではないのだと思う。彼が訴えたいのは、それくらいライブハウスをはじめとした音楽シーンが袋小路にある、という警告だろう。そして、ダメライブハウスを淘汰したいという想いだ。

しかし、そもそも根本にあるのは、今回書いてきたとおり、ライブハウスという仕組みにあるように思う。だって、ライブハウスって所詮は「イベントスペース」なんだもの。もちろん、そこで働く人の熱意を否定するわけではないけれど、経営が必要な以上、それをねじ曲げることはできない誰が悪いとかではないんだろうなと思う。

最終的な提案

と言うわけで、だらだらと書いてしまったし何を言いたいのかもよく分からない感じになっているが、結局のところ問題なのは、音楽にお金を使う人が減ったっていう事実でしょうよ。「今はライブビジネスが盛んです!」なんてメディアは言うけど、それは違うレイヤーの話だし、そこにはもっと深い「レコードメーカー」という闇が潜んでいるので、どうしようもできない。

なので自分として言えるのは、「人気になるまでは、そもそも音楽でお金を稼ごうとするなよ」ということ。これがすべての諸悪だと思うんだよね。AbemaTVとか見てもらえば分かると思うが、まずは無料が基本なわけ。で、莫大なユーザーを集めてからマネタイズをするってのが今の時代の主流だと思う。つまり、はじめは無料でたくさんの人に「こんなコンテンツいかがですか?」って音楽を配って、そこで結果が出たらライブとかで収入を得るようにしましょうよ。結果が出なかったら、「このコンテンツではないんだな」と思って修正を加えていく。今はネットで簡単にたくさんの人にアピールできるんだから、それで良いのでは? と思う。

ちなみに、こういう話ってほんと音楽のクオリティとは関係ないよなって感じる。結局売れるミュージシャンなんて、自己プロデュースとマーケティングがうまいやつなんだよな。「音楽的に素晴らしい」とか、多分どうでもいいんだよ。あと、ことライブに関して言えばライブ映えする音楽性ってのがあるので、集客のみの観点で出演者が埋まっていくと、全員派手なロックやらパンクやら、精神異常しゃぶったシンガーソングライターやらになるんじゃないのとか思う。わかんねーけど。